真白きだけの花火よ霞草

三十路で始めるロックンロール。いまだ売れていない天才(自称)バンドマンが語る音楽、文学、哲学、詩、料理、日々、あるいは旅。

祝サブスク解禁! Syrup16g全アルバムレビュー⑤『Hurt』『Kranke』


Hurt

『Hurt』
 
不吉な歪みと重いリズムで新生(っていってもメンバー変わってないけど)Syrup16gは始まります、「Share the light」。
 
君の涙を切り取って海に沈めたなら
六大陸が一瞬で潤んだ目に沈む
記憶に耐えかねていた麻酔なしの制裁は
昏睡強盗のように容易く書き換える

 

シュルレアリスム的な要素もあり、意味が取りずらいのですが、3、4行目はもう一度音楽をやるということに対しての自嘲でしょうか。「鼻歌消えた世界で 無邪気にまだ鳴っている」という歌詞にも対応するし、おそらくそうでしょう。
だとするならば、Share the light= もう一度音楽という光を共有したい、という五十嵐の新しい戦いがここから始まるわけです。
次曲「イカれたHOLIDAYS」の歌詞を見てみましょう。
 
感情の無い剥製を身体に擦り当てる 撫でる
振動の無い六弦を切り裂くように鳴らす たわむ

 

最新のポスター 欲張りな憂鬱で
身分不相応の未来を込めて
最強のモンスター 断りなき侵入で
つたない理想論 被害者の英雄で
 
そう 言われた通りで
そう イカれたHOLIDAYS
 

 

感情の無い剥製=木で作られたギターのことでしょう。あとは歌詞通りですね。HOLIDAYS=Syrup16gを解散させたあとでしょうか。犬が吠える、の前? それともさらにそのあと?
ともかく、ここで五十嵐の自己紹介が終わります。
音楽という光を共有するためにイカれたHOLIDAYSから抜け出し、こうして再びぬけぬけと戻ってきたこと。
そして五十嵐が取った手段こそ3曲目「Stop brain」。
 
無為に没する生活で
込み上げるは平凡な希望
日々と真摯に対峙して
来なかったツケ 痛恨の希望

 

君とおんなじように生きてみたいけど
君もおんなじように生きていくのは
とても大変で

 

Stop brain
思考停止が唯一の希望

 

 
これこそまさに哲学者、五十嵐隆でしょう。思考停止が唯一の希望! まさにジョジョのカーズのように考えるのをやめて、音を鳴らすことを選んだ五十嵐の宣言、とも言えるこの曲はおそらくこのアルバム中一番の人気を誇るであろう良曲です。
さて、ではどうして音楽という光をそもそも共有しようと思ったのか。そのことが書かれているのが4曲目「ゆびきりをしたのは」。
 
諦めてるのが好きな
慰めてるのが好きなんだよ
 
一生そればっかりでも飽きるから
本気出せるもん ひとつくらいはないか
 
Carry on Carry on このままどこに
行くのか知らないけど ゆびきりをしたのは
 

 

勇気を使いたいんだろ
 
応援してるだけさ
共に生きていたいだけなんだよ

 

 
はっきり断言する 人生楽しくない
だから一瞬だって繋がってたいんだ

 

『Mouth To Mouse』期を彷彿とさせるような(唄ってることは「実弾」とは真逆なんですが)、絶望と希望の狭間の歌詞は、シンプルな言葉選びですがそれゆえに力強さを伴っています。
5曲目は「( You will)never dance tonight」。「いつも痛みは空っぽで 呆れるくらい他人事で 置き忘れてた言葉まで 持ち出して訊いてくる」、『delayed』、つまり初期の五十嵐に近い質感の、抽象的な歌詞と、不安な旋律のこの曲から、おそらく本編とでも言える楽曲のスタートです。4曲目までは宣言ですから。
というわけで6曲目でありながら2曲目は「哀しきShoegaze」。まんま「実弾」のイントロですが 笑 あんまり人気ないのかな、個人的にはコロコロ変わるメロディー、そしてキャッチーで泣けるサビがたまらなく好きな曲です。
 
たどり着いたビルの端 ゆらゆら
広がる夜景の灯 キラキラ
 
楽しかった記憶の回想
残念ながら冒頭で再放送

 

軽めの十字架背負い ふらふら
感情にも見放され イライラ

 

哀しきShoegaze
刹那いShoegaze forever
Somebody here? 懐かしい午後
 
歌詞もよく読めば冒頭からかなり危ないことを言っていて、なんか、らしい曲だと思います。
7曲目はこれも「I’m劣性」みたいですが、、、「メビウスゲート」。歌詞はちょっと笑ってしまうようなところがいくつかありますが(「低賃金ハードワーカー 軋む歯車」て!)、
 
たまに君の論外な非常識の論理が
正しく見える いつかは
繋がれたメビウスのゲートの中潜る
秘密の儀式に憧れていたんだ

 

という歌詞はすごくいいですね。本当にロマンチストだなあこの人、と思います。
8曲目はまさかのMV公開と謎の五十嵐のヘアスタイルが騒然となった、再結成Syrup16gのもっとも早く世に出た曲「生きているよりマシさ」。
 
一人きりでいるのが長すぎて
急に話しかけられると声出ないよね
基本地面ばかり見て歩くから
たまに人と視線合うとキョドっちまうよね

 

ほとぼりが冷めたらまた奮起して
やり直せるなんて甘いこと考えてた

 

解散後の自伝&自虐的な歌詞から、2Bメロ後に五十嵐ジャンプと呼ぶべき跳躍を見せるのですが、ここがやはりグッときますね。
 
もう君と話すには俺はショボすぎて
簡単な言い訳も思いつかないんだ
戸惑いの奥にある強い不信感を
はね除ける力が残ってたらいいのに
 
君と出会えたのが嬉しい
間違いだったけど嬉しい
会えないのはちょっと寂しい
誰かの君になってもいい 嬉しい

 

そう、ここでついに五十嵐は『COPY』から延々続いてきた「君」という呪縛(もちろんこれは誰か特定の個人を指す話ではありません)を、そのまま認めることができたのです。だからこそ執拗に繰り返される、
 
死んでいる方がマシさ 生きているよりもマシさ
 
は、「死んだ方がマシだとして、それでも生きていく」という、諦念の先の、なにか執念のような、ただ生きていく、その業自体を肯定するような、、、そんな大きなスケールを感じさせてくれます。
次曲「理想的なスピードで」は穏やかな佳曲。しかしこの曲もとにかく歌詞が素晴らしいですね。
 
「泣いてる?」なんてからかわれても
「意味がわからない。馬鹿じゃん」
くらいしか言い返せないけど
 
安心だけはしない 誰になに言われても
安心だけはしない 死ぬまで
 
反省だけはしない 無意識にやってるから
反省だけはしない 死ぬまで
 
愛してみろ 信じてみろ
壊してみろ 自分

 

この曲も、『Hurt』というタイトル通り、傷を受容していく過程にある楽曲ですね。
こうしてある種の自己セラピーを終え、傷と向き合った五十嵐が次に向かうのは疾走感溢れる「宇宙遊泳」。
 
次のステージがDestination
うんただの僻地が
輝いてくれ ただ夢中になれ
宇宙遊泳

 

というわけで、次のステージ、目的地へ向かうために「旅立ちの歌」でこのアルバムは締めくくられます。
 
旅立ちの歌
繊細さを胸に
そっと秘めながら歩く
君とまた会えるのを待ってる

 

なんとなく急ピッチで作った感全開、というか、もう少しアレンジ練った方がいいんじゃないの? とか、ギターソロ、ちょっと音外してないこれ? 大丈夫? え? わざと? など突っ込みどころ満載の曲なんですが、まあこれはおまけ曲、という位置付けでいいんじゃないですかね。
 
はい、というわけで楽曲の出来はまだリハビリ、といった趣がありますが、歌詞、思想の面ではまぎれもなく次のステージにたどり着いた我らがSyrup16g。過去との訣別、なんて大層なものではなく、ただ自身の痛みを受け入れる。死んだ方がマシだとしても生きていく。結構批判的な意見が多いアルバムですが(ワタクシもあまり良いと思わなかったのですが)、こうしてじっくり解剖して分析してみるとなかなか悪くない、どころか、このフラフラした立ち上がりこそまさに五十嵐という人間の魅力なんではないでしょうか。と、贔屓目にコメントしつつ、さて、ここからSyrup16gはどんな音楽を紡いでくれるのでしょうか。
 
 


Kranke

 
 『Kranke』
復活二枚目はミニアルバム。タイトルは患者。1曲目「冷たい掌」、これ、史上最高の名曲なんじゃないでしょうか。
 
冷静になり 状況把握して
反省もほどほどに 貴方を忘れた
 
三階建ての階段上って
眺める景色がすべてだったから

 

この、「すべてだったから」の「から」に対応する部分は普通に考えれば「冷静になり 状況把握して 反省もほどほどに 貴方を忘れた」の部分なんですが(つまり倒置されている)、そうすると文意が通らなくなるので、この出だしの二行と次の二行はまったく別の、つまり意識の流れ、とでも言うべきあやふやな心の移り変わりの記述でしょう。
 
自然に振る舞おうとしてた
怯えていた
分かり合えないものなんてないようなフリして

 

この抽象的なシチュエーションも、前後の歌詞からは分断されています。つまり、この楽曲の歌詞は意図的にいわゆる作詞の技法を回避して意識の流れだけで書かれている、と見て間違いないでしょう。
 
冷たい掌握り直して
過去へ連れてって
冷たい掌握り直して
未来へ連れて行こう

 

ここで握り直した冷たい掌は「貴方」なのか? ならばどうして「貴方」を忘れる必要があるのか? そもそも本当に「貴方」を忘れたのなら、歌詞に書くこともできないはず。忘れていないんですよこの男は。「冷たい掌握り直して」というサビのくだりこそ、「貴方」に伝えたいメッセージなのです。
「You’re my steel You’re the protection」という締めくくりの歌詞まで完璧。
2曲目「Vampire’s store」は久しぶりの戦争ソング、、、ですが、「やりきれないのは誰のせい 満ち足りないのはまあ気のせい」など、いわゆる「個人の戦争(戦闘)」と絡めた歌詞はかなり抽象的で、一聴しただけではなにを言いたいのかあまりよく分かりません(悪いわけではなく)。
「songline(Interlude)」というインスト曲を挟んで(唄われているO・O・A・A・Eを50音で数えると5・5・1・1・4で、その合計が16、、、て話があるのですが、ホンマかいな 笑)、「Thank you」。これは五十嵐の得意な感じですね。いい曲です。「夢はちっちゃいゴールで墓に埋葬 上機嫌 無駄になっちゃう思い出 ムキになるまで申し込んで」なんて歌詞、むちゃくちゃ泣けますよね。ああ、いいなあ。変なコード進行だなあ。ライブで観たいな、この曲。
あっという間に最後の曲「To be honor」。
 
数秒間の静寂が
永遠より長すぎるから
とりあえず喋ろう
 
計算なんかとんでもない
いっつも意識に身を削ってる
息を殺してる
 

 

迷走ぎみの生還者
脱走兵に弁解の余地はない
身から出た錆

 

疲れる生き方してるよなあ、と苦笑してしまうくらい、やはり自分を冷静に観察するところは相変わらずなのですが、
 
To be honor
主導権はどこ行った 不健全だろう
空気読むな
主導権は君じゃなきゃ不健全だろう

 

泣いてるひとの傍で
寄り添ってたい
ずっとそんな人なのに
見失ってんだ

 

いっそ悲しみごと抱きしめようか
いっそ憎しみごと抱きしめようか

 

これはファンに向けたメッセージでしょう。こんなことをあの五十嵐が唄っている! いや、あの五十嵐だからこそこんなことが唄えるのだ!
 
曲数少なくあっという間に終わってしまいましたが、『Kranke』は前作『Hurt』から本当に一歩を踏み出したような、、、もちろんまだ「迷走ぎみ」であることは本人も唄っている通りなのですが、新しいSyrup16gへの過渡期、さなぎのような作品です。
 
というわけで、ダラダラ続いたレビューもいよいよ最後! 次回、『darc』と『delayedback』にて完結です! お疲れ様でした!(まだ終わってない)