真白きだけの花火よ霞草

三十路で始めるロックンロール。いまだ売れていない天才(自称)バンドマンが語る音楽、文学、哲学、詩、料理、日々、あるいは旅。

祝サブスク解禁! Syrup16g全アルバムレビュー④『delayedead』『syrup16g』


delayedead

『delayedead』

 遅れてきた死、とでもいうべきタイトルのこの作品は、前回のアルバム『Mouth To Mouse』の出来にどこか不満足だった五十嵐が、「俺はもっと毒を吐ける」ということで、過去の、あるいは未発表の曲をまとめたアルバムです。なので、『delayed』と同じく、このアルバムにコンセプトはあまりありません。
『delayed』がダウナーで内省的だとするなら、今回はダウナーですが攻撃的。
1曲目、ダークなマイナーコードから始まる「クロール」で幕を開け、2曲目明るいアルペジオと共に「必要なのはきっと愛で / それでも人を憎んで / そのまんまでいていいんだよ / 君なんだよ」と、まるで『COPY』の頃の自分を救済しようとするも「そんなの必要ない 見つからない一切dougt」と結局無限メタ地獄に落ち込む「Inside out」が終わると、インディー時代のアルバム、ワタクシがわざと飛ばした『Free throw』に収録されているアンセム「Sonic Disorder(タイトルは広場パニックの英訳、Panic Disorderから)」のベースリフが鳴り響きます。
そう、この『delayedead』の中には「ホノルルロック」を除いた『Free th』のすべての楽曲が収録されているのです。なので、先に『delayedead』を聴いてから、一体五十嵐がここにたどり着くまでにどれだけの道のりを歩いてきたのかを確認するために『Free throw』に戻る。という順番を推奨しています(勝手に)。
 
いつかは花も枯れるように壊れちまったね ここは怖いね
 
君の胸に抱かれたなら少しは安らかに眠れるかな
人は一人 逃れようもなく だから先生、薬をもっとくれよ

 

と、はっきり言って言葉の力は少し過剰なのですが、その言葉の強さに楽曲の強度と五十嵐の声が負けません。
4曲目「前頭葉」は少しゆったりとしたアルペジオから咳払いと同時に再びダークなロックに切り替わります。どこか投げやりで、「前頭葉」でシャウトするのは五十嵐くらいでしょう、ちょっと狂気じみていて、ボーカリストとしての五十嵐の魅力を堪能することができます。いやとんでもなくかっこいい声やな。
5曲目「Heaven」もタイトルとは裏腹にまたしてもダークなロック。マキリンのベースがうねり倒します。この曲もシャウトがかっこいいですね。
6曲目は五十嵐の真骨頂、たった2つのコードだけで進行していく切なく美しい楽曲「これで終わり」。大好きですこの曲。何回聴いて泣いたことか。
 
罪や希望と交換に僕は新しい傘を買う
使えなくて無理をする
汗ばむ手を拭いて おおげさに深呼吸をして
歩き出すよ 君の方へ

 

悲しい物語を読み終えたころに聞こえてくる In Your Last Days
背中をそっと抱いて君は優しく語りかける In Your Last Days

 

光と影を受け止めて
疲れた顔で微笑んで

 

視界がもっと溶けて想いが滲んでかすれても
仕方ないさ これで終わり

 

いつの日か感じたことがあるような、一つの物語が終わる瞬間の、あの時の気持ちを思い出させてくれます。
うわ、今聴いて鳥肌が。。。
で、次曲は説明不要、ここからSyrup16gというバンドが始まった大名曲「翌日」。
 
急いで人ごみに染まって
諦めない方が奇跡にもっと近づくように

 

勝利とかじゃないんですよ、諦めずに頑張っても近づけるのは「奇跡」だなんて。どれだけ頑張っても報われないかもしれない、それでも諦めないことでしか「奇跡」には近づけない。そんなどうしようもない現実の残酷さとかすかな希望を見事に切り取った歌詞だと思います。
この曲が『Free throw』、そしてDEMOテープ1作目に収録されていることを考えると、まさに「翌日」からSyrup16gというバンドはスタートしたわけです。
 
嘘から抜け落ちた裸のような目で
美しいままの想像で
不甲斐ないまま僕が受け入れるべきもの 今
形に残せないすべて

 

これはまさに物事をありのままに捉えて音楽を作り続けていくことの決意表明であり、
 
喧騒も待ちぼうけの日々も
後ろ側でそっと見守っている
明日に変わる意味を

 

すべての瞬間は、たとえそれが空振りの、待ちぼうけの日々であろうとも、自分の中で生き続けているのだ、と肯定する、例えば五十嵐が愛する宮本の言葉を借りるならば「悲しみも喜びも全部この胸に抱きしめて駆け抜けたヒーロー」として生きることへの宣言なのです。
その名曲「翌日」の次は「ローラーメット」にも通じる、ちょっととぼけたような「I Hate Music」。サビのコード進行も良いし、ハードロックな演奏も面白いのですが、「I Hate Music」って、それを言ってしまうともうおしまいでしょう、という。笑
9曲目は無茶苦茶に詰め込まれた歌詞やヤケクソがかっこいい「もういいって」。
 
夢は叶えるもの
人は信じあうもの
愛は素晴らしいもの
もういいって

 

時間ないから適当に作りました、みたいな楽曲なんですが、それでもこんなクオリティの高い楽曲を作れてしまう五十嵐の才能が凄まじい。
10曲目はこれも『Free throw』から「真空」。これもアンセムですね。ギザギザ刻まれるギターと、アルバム中最高の疾走感がとにかく気持ち良い。
 
懸垂二回以上できない
長距離走るの嫌い
先生、あなたが言いたいこと
本当は僕分かってたんです 全部

 

このかっこ悪さ! 最高にかっこいいです。11曲目「エビセン」はダウナーな、ささやかで美しい曲。昔は全然好きじゃなかったのですが、再結成後にこの曲をやっていて好きになりました。
12曲目は「Breezing」。疾走感あるナンバーで、初の全曲英英詞ですが、、、ううん、特筆するべきところはあまりないかな。
13曲目「Good-Bye Myself」は、強引に詰め込まれたメロディーに笑ってしまいつつも、「当ててみるね 存在の意味ね 言いたくないね 以外と地味ね」という歌詞、演奏、五十嵐のボーカル、殺気に惚れ惚れしてしまいます。
そして迎える14曲目は大名曲(こればっかりなんですが、このバンドには本当に大名曲が多い!)「明日を落としても」。
 
辛いことばかりで心も枯れて
諦めるのにも慣れて
したいこともなくて する気もないなら
無理して生きてることもない
 
明日を落としても
誰も拾ってくれないよ
それでいいよ
 
こんなことを唄いつつ、
 
そう言ってうまくすり抜けて
そう言ってうまくごまかして
そう言って楽になれること
そう言っていつの間にか気づいていたんだ
 
Do you wanna die?
 
果たして本当に人生に生きる価値はないのかを問い続ける、まさにSyrup16gというバンドを象徴する曲でしょう。
アルバム最終曲は「きこえるかい」。3拍子の切なく、力強いナンバーです。
 
歩道の上 うつ伏せでも寝れる
ひんやりしてる
渦の中 覗き込めば見える
恥ずかしい気持ちが
それとなく

 

渦の中=車の車輪でしょう。最も死に接近した歌詞でありながら、「知らせるさ 君には きこえるかい」という言葉に救われます。
「いつのまにかここはどこだ 君は何をしてる」なんて、これまでの五十嵐の足取りを考えれば本当に泣いてしまいます。
 
というわけで『delayedead』は、寄せ集めの作品集ではありますが、『Free throw』のほとんどを含むなど、楽曲単位で見ると避けては通れないアルバムでしょう。
このシリーズにコンセプトはありませんが、、、まあそれは言うだけ野暮ってことで。
 
ここからSyrup16gは迷走し、ライブで延々と新曲をやり続けて一切音源を出さないバンドになっていきます。
その間の音源をネットの海で拾い集めてはトリスウイスキーを飲みながら聴く、それだけが自分の人生の一番の楽しみだったころもあるほど、この時期の未発表曲に思い入れはあるのですが(一部は次作『Syrup16g』と再結成後の『delayedback』に収録)、公式ではないものをレビューしても仕方ないので飛ばします。
 
 


syrup16g

『syrup16g』
 
さて。というわけでレビューもついにここまできました。
解散前のSyrup16g最後のアルバムは、セルフタイトル、少しだけ斑点のようなもので汚されているジャケットは白を基調としていて、五十嵐のバンド解散への決意が見てとれます。
1曲目「ニセモノ」。ミックスのこのおおげさな感じがちょっとどうにもいただけませんが、まあぶち撒けてしまってます、五十嵐。
 
そう夢見てきた いいだろ
途中までいい感じだった
破滅の美学なんかを利用として
いざとなりゃ死ぬつもりだった
 
結局俺はニセモノなんだ
見せ物の不感症
拾った思い吐き出して
愛されたいの まだ
 

 

あ〜あ。言っちゃった。。。というような歌詞ですが、、笑 絶対女とも別れたよこれ。『Mouth To Mouse』のポジティブっぷりはどこへやら、おまけに五十嵐の父親がこのタイミングで亡くなられた、ということで、再び地獄の底に落ちていってます。
次曲「さくら」。悪戦苦闘ライブ期のデモのころと大分歌詞が変わりましたが、キラー・チューンですよね。
 
全てをなくしてからはどうでもいいと思えた
枯れてしまった桜の花かき集めているんだろう 
 
悲しくて悲しくて涙さえも笑う
優しさも愛おしさも笑い転げてしまうのに
さよなら さよなら
遠回りしてた
 
ついにバンドの終焉までが歌詞に重なります。悲しくて悲しくて涙さえも笑う、こんなところに辿り着いてしまうなんて。
 
全てをなくしてからはありがとうと思えた
これはこれで青春映画だったよ俺たちの
 

 

3曲目「君をなくしたのは」、この曲は完全にライブ、デモの方がよかったなあ、という。アレンジがあんまり、、、。
4曲目「途中の行方」、「俺は狂っちまったけどなにもかも忘れられない」「誰でも吐きそうな言葉垂れ流して 誰でもなりそうな病気ぶら下げて」と、「ニセモノ」と同じように自身を対象化して冷水をぶっかけていきます。
5曲目「バナナの皮」、ここで打って変わって陽性の曲です。「散々泣いちゃって絶好調になったんだ」という歌詞にはとても救われたし曲の出来は悪くないのですが、う〜ん、一枚のアルバムとして通して聴くと、違和感、というか寄せ集め感があります。
というか、こうしてレビューを書いていると、統一感があるアルバムを最後に作ったのが『HELL-SEE』なんですよね。あそこまでは確実にコンセプトがあったはず。
6曲目「来週のヒーロー」は、Syrup16gの中でも5本の指に入るほど好きな曲です。これもライブ、デモの方がよかったけど、、、。
全てをなくした、とさっき言っていた男が「失ったものなどなにもない いつかは分かってもらえるはず」ですからね。これは禅問答の境地ですよ。笑
次曲「ラファータ」、これもまっすぐで力強い名曲、、、なのですが、やはりライブ・デモの方に軍配が上がるかと。というか、やっぱりこのアルバムってすごくちぐはぐなんですよね。結局俺はニセモノなんだ、と言い放った男が同じアルバムに収録していい曲じゃない。笑
だって「雨上がって 光伸びて 汗をかいてただこの日を生きてる 続いてゆく」ですよ。躁鬱の振れ幅が尋常じゃない。
で、その次の曲は「HELPLESS」。「賛美歌の歌が聞こえてるのは三時間くらい前に焼かれたから」、父親の死に接して書かれた曲、だったと思います。
悪い曲じゃないですが、、、。そしてこのいったりきたりの不安定さこそSyrup16gの魅力と言われればそれまでなのですが、、、。
そしてその次の曲「君をこわすのは」、生々しい弾き語りの曲ですが、これも、う〜ん。もっといい曲書けるでしょう? っていうかあるでしょう? っていうのが本音です。
さて。いよいよアルバムも終盤。打って変わって一気に切なくも爽やかな疾走ナンバー「scene through」は、聴きやすく一般的に見るといい曲だと思います。でもまあ五十嵐ならもっといい曲(略)。
「楽しかった約束 つかまえた口笛 スカートの裾が描くSweet melody」なんて一歩間違えればヤバい歌詞になると思うのですが、前後の歌詞、そしてなによりも五十嵐の声によって心に突き刺さります。あのこのレビュー、基本的に五十嵐の歌詞にしか言及してないんですが、マキリンの鬼ベース、たまりませんね。。
最後の「ララララ」コーラスまで含めて、、、とここまで書いて、あれっ、でもやっぱり俺この曲ベタでも好きだな、と今聴いて思ってます。笑
11曲目「イマジネーション」は、実質上このアルバムの、そして解散前Syrup16gの最後の曲でしょう。
 
自分だけ苦しいと
どこかで思っていたのかな
優しさを履き違えて
あなたに押しつけてばかり

 

最後のチャンスだと
わかってたのに

 

たくさんの歌
たくさんの思い出が
イマジネーション
体を突き抜けてく

 

言わずもがな、メンバーに向けた歌詞ですね。ここで終わっておけば五十嵐という人間はもう少し分かりやすい男なのですが、最後に「夢からさめてしまわぬように」という、父親が亡くなった時に書いたとされる曲が弾き語りで収録されています。
 
君からもらった空の色
風に吹かれ歩いてゆく
君から学んだその後で
僕はなにを返すんだろうか
逢いたいよ

 

夢からさめてしまわないように
夢の先のことを考えて泣くのはもうやめておこう

 

と、こんなことを唄い、さも穏やかな諦念を唄った曲かと思いきやですね、
 
もっと寄りそって 近づいて 消えないで
もっと寄りそって 近づいて この手を握って
そっと いかないで 少しだけ声をかけて
そっと いかないで

 

最後の最後! 最後の最後に弱々しい声で本音を残して去ります、去るんですよこの男は! 卑怯ですよね!?(落ち着け)。
Lou Reedの「Perfect day」みたいな最後のどんでん返しはともかく、この曲の持つ美しさが、今聴き返していてやっとわかりました。バンドバージョンでも演奏してほしいなあ、、、。
 
と、こうして最後の最後に残る気力を振り絞ってどうにかアルバムを完成させ、Syrup16gは解散したのでした。
『COPY』から始まった五十嵐の旅は、再び地獄に突き落とされることで敗北したまま幕を閉じました。
 
だから、まさかSyrup16gが再結成するなんて(犬が吠えるやらなんやらのグダグダっぷりも含めて)、夢にも思っていませんでした。
ああ、夢からさめてしまわぬように。まさに今のワタクシはそんな気分でございます。