真白きだけの花火よ霞草

三十路で始めるロックンロール。いまだ売れていない天才(自称)バンドマンが語る音楽、文学、哲学、詩、料理、日々、あるいは旅。

祝サブスク解禁! Syrup16g全アルバムレビュー③『パープルムカデ』『My Song』『Mouth To Mouse』


パープルムカデ/My Song【reissue】

 
『パープルムカデ』
 
記念すべき1stシングルは2003年9月17日発売。『COPY』『coup d’Etat』『HELL-SEE』で「君」との問題を解決できなかった五十嵐ですが、ここに来て「戦争」という大現実を自分という小現実に重ねることによって、逸脱を図ります。ファンから人気が高い、変拍子が特徴的な「パープルムカデ」、タイトルは隊列を組む兵士たちから連想された言葉か。
「好きなことはなに? 好きなことをやれ」あるいは「俺は俺のままで下敷きになる」など、これまでにはない戦闘態勢、、、というか、決意のようなものが現れます。
次曲「(I’m not)by you」、ちょっと下ネタに聞こえてしまうのがもったいない静かな名曲は「時が経つのをこうやって ただ待ってる それだけ」といつもの五十嵐節を覗かせながらも、「隠しきれない傷だって 消えてしまうものだって」「悲しみを追い払ったら 喜びまで逃げてった」と、絶望の先の諦念の領域にまで歌詞が達しています。
そして3曲目「回送」では、なんと電子音の打ち込みに合わせて「Shining Staring クマのリュックとローマ帝国の配下で君はまゆげをなくした」と、突然のシュルレアリスティックな歌詞が唄われます。
歌詞に登場しないタイトルの回送という言葉は、もともとライブで唄われていた初期歌詞の名残で、そこには「あとはもう漫画読みたい」「凡人 才人 つまらぬ葛藤よ そんなもんで今日も煮詰まり あとはもう酒飲みたい」と、かつての五十嵐節が書かれています。
 
つまり、このタイミングで五十嵐に、なにか前向きに変わる大きな出来事があったことは間違いないでしょう。「つまんない君を守る為に」、あるいは「その時体中が未来を感じたんだ」という今までにないフレーズが歌詞に登場しているところからも推測できます。
4曲目「根ぐされ」は、トム・ヨークが弾き語りをしているようなシンプルで美しい曲。「俺の魂は根ぐされを起こしてしまった 君のせいでもなく 永遠に」と、厭世的な出だしとは裏腹に、もはや誰を責めるでもない五十嵐は「働くのさ 自分の道を探すのさ 可能性なんて無限大」「どんな言葉も役割を遂げた時 変わらない歌を届けたい」「飛び立つのさ 自分の意思で放つのさ この空の彼方を見てみたい」と変わり始めます。
 
記憶を辿って とある駅へ出た
そこには何もなく すでに
そこで僕は君の家を見つけた
少しだけ感動して 帰る
 
風呂場で録音したというリバーブがかった宅録全開の「根ぐされ」は、後半で突然チープなノイズによって埋められて終わります。
今までの作品とは一転、五十嵐のモードが変わったことがはっきりと分かります。そしてそれは自作『My Song』へ続きます。
 
 
『My Song』
 
間髪入れず2003年12月17日にリリースされた2ndシングルはタイトルからしてびっくり、「My song」は楽曲が始まってからさらにびっくり。どうした五十嵐、なんか悪いもんでも食ったか? というくらい優しい楽曲です。
 
あなたを見ていたい
その場にいれる時だけ
裸を見ていたい
言葉はすぐに色褪せる

 

おいおい。お前絶対新しい恋に落ちたやろ? かつての私小説家さながら、五十嵐の正直さが見てとれる歌詞です。
いい曲なんですけど、いつ聴いても物足りない感じがあります。ちょっと無理してない? と思わず聞きたくなってしまう、、、。
そんな爽やかさから一転、2曲目「タクシードライバー・ブラインドネス」は五十嵐屈指の名曲でしょう。
 
ニュースは毎朝見る
ところで思うんだが
占いのコーナーってあれ 何?
 

 

まずこの出だしからして最高。笑いながら頷いてしまいます。
 
未来は無邪気に割り振られ
人は黙ってそれを待つ
 
そこにあるすべて それがもうすべて
求めればまた失うだけ
仕組みの中で子宮に戻る
見過ぎたものを忘れてく為
 
許されることだけを許される範囲で
やり通せると思ってきたのに
 

 

楽曲のクオリティ、歌詞のクオリティ共に凄まじく、どこか超越した、というか大きな視座に切り替わったと感じさせられます。
3曲目「夢」、これもまた凄まじい。積み上げた石を自ら足蹴にして壊していくような、五十嵐のタナトスがもっとも噴出している曲といっても過言ではないでしょう。
 
本当のことを言えば
俺はもうなんにも求めていないから
この歌声が
君に触れなくても仕方ないと思う
 
夢はなんとなく
叶わないもんだと思ってきたけど
なんてことはない
俺は夢を全て叶えてしまった
 
本能を無視すれば
明日死んじまっても別に構わない
本気でいらないんだ
幸せはヤバいんだ

 

ここまで捻くれてしまうと、どこまで行っても救いがないことに気づいたのか、五十嵐がどこかで「あの曲は失敗だった」と言っていたのも分かりますが、曲・歌詞共に素晴らしいと思います。
「生きたいよ」でかつて「ただのノスタルジー 生ゴミ持ち歩いてんじゃねえ」と唄われていたゴミが、今度は「煮詰まって 妥協して 生み落とす燃えないゴミ」に変わっているところにも注目です。
さらにダメ押しの4曲目「イマジン」。「タクシードライバー・ブラインドネス」「夢」「イマジン」でシングル切ってれば伝説のシングルになってたんじゃないかってくらいこの3曲の完成度は高いです。
 
将来は素敵な家とあと犬がいて
リフォーム好きな妻にまたせがまれて
観覧車に乗った娘は靴を脱いで
 
窓から差し込むのは朝日または夕暮れ
それすらもうどうでもいい
 
こんなんでいいんだろうか
そんな訳ないだろう俺
なんでここで涙出る
 
と、自身が今まさに手に入れようとしている普遍的な幸福像に対して、芸術家・音楽家たる自身としての生き方がぶつかります。そう、「幸せはヤバい」、幸福を手に入れてしまうということは、自身が規定する芸術家・音楽家の厳しい道から外れていくということではないのか? と五十嵐は葛藤します。
 
空はこの上 天国はその上
そんなの信じないね
空は空の色のまんまで
人は人のまんまで
そのままで美しい

  

そしてついに五十嵐は、悩み傷つく自身を、それでこそ自分自身だと肯定する境地にまで到ります。神のカルマなどどこにもなく、ただ自分自身の業と向き合い清算していく生き方を選びます。
まさに「イマジン」はこの時点での集大成と言える楽曲であり、これまでの音源を時系列順に聴いていけば、五十嵐の克己の歴史をここに見ることができます。
 
こうして五十嵐は再び革命の旗を掲げます。
 
 
 
『Mouth To Mouse』
 
達成感なんているかそんなもの
俺は死ぬまで完成なんかしない
上手にやれなくても構わない いつか
ツイてなかったって言って終わろう
 
もう誰も止められない
この音楽を愛してるんだ
セ・ラ・ヴィ これが人生
やっとおもしろくなってきたんだ 今
さあ 今更
 
すべてを受け入れる力 それが勇気だRight!
 
さらに勢いは止まらず2004年4月21日に発売された5thアルバムはオリコンチャート22位(この時点で過去最高位)にランクイン。いや本当にどうした。とツッコみたくなるほど、1曲目「実弾」から、いきなり五十嵐がこれまでにない戦闘態勢に入っていることが分かります。まるで別人のような歌詞ですが、楽曲のクオリティは相変わらず高く、案外すんなりと新しい五十嵐に馴染めると思います。
次の「リアル」でも、
 
命によって俺は壊れた
いつかは終わるそんな恐怖に
でも命によって俺は救われた
いつかは終わる それ自体が希望
 
お前にこの一生捧げよう
必要なくなって見捨てられるまで
 
必死なのはかっこ悪くない
むしろその逆
 

 

自身を見つめる冷静な眼差しは失われていないものの、今までのSyrupになかったエネルギー、生を肯定する力が渦巻いています。
3曲目「うお座」はミニマルで美しいバラード。
 
意味もなく君はあの時寂しくて
嫌いじゃない僕を受け入れただけ

 

というリアルな心情描写が感情を抉ります。「この音楽を愛してるんだ」と五十嵐が唄った通り、このアルバムは楽曲こそ統一感なくバラバラですが、個々のクオリティは非常に高く、唄う喜びというものに満ち溢れた五十嵐の渾身の歌唱と見事に結実していると思います。
4曲目「パープルムカデ」、5曲目「My Song」は先述、6曲目はタイトル曲の「Mouth To Mouse」。地味ながら良い曲です。「奥歯は絶対抜いちゃだめ 嘘に酔う元気なくしちゃだめ」という言葉遊びも面白いですが、「きっといつかは痛みも忘れ そっと同じあやまちを繰り返す罪」と、まるで今後のことを予見するかのような不吉な歌詞が提示されます。
7曲目「I・N・M」は「I need to be myself」の略。これは名曲ですね。
 
逃げたいキレたい時もある
別れを告げたい時もくる
逃げたい消えたい時もある
ただ前を知るために精一杯
 
俺は俺でいるために
ただ戦っている精一杯

 

ここで五十嵐は、特定の個人の喪失を唄っていたころからもう一つ次の段階に進み、喪失そのものと向き合います。歌詞・楽曲共に見事というより他にない出来です。
次曲「回送」、これも先述しましたが、シングルとはバージョン違い。演奏のテンポが上がり、打ち込みが消えています。
9曲目「変態」は変質者の方ではなく 笑 「サナギは蝶になった」の方の変態で、「手首」のメロに似たリフとジグザグのギターの音色が格好良い、個人的にお気に入りの曲です。
 
俺は待っていたんだ
眠ってた訳じゃない
いつだってその時を待っていた
 
図鑑になんか載ってない
俺のは完璧なフォルムしてんだ 見てほら
一点のくもりもない
澄み切った空の日 羽ばたくんだ すげえ

 

あの五十嵐がついに羽ばたくつもりなのだ、と考えるだけで涙腺が刺激されます。10曲目はシングルに収録されていた「夢」。11曲目「希望」は、ラストライブでも演奏されていた曲で、シンプルな曲ですがメロディの美しさ、歌詞の切なさは特筆すべきものがあります。
 
希望あつめて 洗って たたんで
いつか身にまとうその時
迎えに来てくれ

 

12曲目「メリモ」、タイトルはMerry more?
 
生きんのがつらいとかしんどいとかめんどくさいとか
そんなことが言いたくて えっらそうに言いたくて
二酸化炭素吐いてんじゃねえよ
 

 

という、お前が言うなよ的なある種の自虐を含んだ歌詞や、「絶対これは買いの絶対って何?」という名言が聴きどころですが、個人的にはその歌詞も含めてあまり出来の良い曲とは思えません。もしかしてSyrup16gで一番興味ない曲かもしれません。
転じて13曲目「ハミングバード」はささやかな良曲。全て引用したいくらい素晴らしい歌詞なのですが、
 
セミだって花だって
悲しいと思える
人間の感性を
自分は愛してる
 

 

この歌詞はまさに、コリン・ウィルソンが『アウトサイダー』で引用していた「春には桜の樹を愛し、青空を愛すーーそれだけだ。智能とか論理の問題ではないーー臓腑で愛する、腹で愛することなのだ」というドストエフスキーの言葉そのものに当てはまります。
『COPY』から続いた五十嵐の地獄巡りはついに終わり、そして最終曲『Your eyes closed』に辿り着きます。
 
あなたと出会って
ただそれだけで
すばらしくなって
後悔なんかしないで
 
どうしてそこからそこに行く
行動が読めなくてドキドキする
 
愛しかないとか思っちゃうヤバい
抱きしめてると死んでもいいやって
たまに思うんだ

 

、、、やっぱりね! なんか変に元気だと思ったら恋してたか五十嵐!
いや〜この男、正直すぎます。まさに現代の私小説家。自分を切り売りしてます。
 
というわけで『Mouth To Mouse』は、長く続いてきた五十嵐の絶望にピリオドを打つ作品であり、新しい愛を祝福するアルバムでもあります。
しかしその新しい愛こそが再び地獄への入り口だということに、この時五十嵐は、、、気付いて、、、いや、多分気付いてますよね。笑
 
というわけで次回は『delaydead』、そして解散前の『syrup16g』に続きます。