真白きだけの花火よ霞草

三十路で始めるロックンロール。いまだ売れていない天才(自称)バンドマンが語る音楽、文学、哲学、詩、料理、日々、あるいは旅。

稚内一人旅(無職・自称ミュージシャン)~その⑤~

はじめに

この一連の旅行記は、今からおよそ二年前、Amebaブログに書いていた記事です。

自分の人生において、とても大きな意味を持つことになったあの日本最北端の地・稚内旅行の記録を失うのはあまりにも惜しい。

ということで、こうして始めたばかりのはてなブログに持ってくることにしました。

諸事情により何日か更新できないので、こちらをお楽しみ下さい。

けっこう面白いと思いますよ。あと、もし稚内へ旅行に行く人がいれば役立つかもしれません。

 

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最後のグルメ

ユングの唱えたシンクロニシティ。

共時性。ある出来事が偶発的に同時に生じること。

今までの人生で、何度かこういうことが僕に起こったことがある。

そういう時、振り返れば得てして僕は正しい道を歩めていたように思う。

……よし。いつか必ずオーロラを見に行くのだ。

と固く心に誓って、僕はノシャップ岬をあとにした。

 

風と雪はさらに強さを増している。体力的にも気力的にも厳しいので、徒歩で帰るのは断念してバスに乗ることにする。

バス乗り場まで行くと、タイミングよくバスが待機していた。

客は僕一人。運転手さんも大変よな。

 

駅前まで戻ると、たくさん歩いて笑ったからだろう、いい感じに腹がすいている。

安い定食屋でも探して済まそうか、と思っている僕の脳内に「本当は食べ残したもん、あるやろ?」という悪魔のささやきが聞こえる。

壇上にスーツをかっちりと決め込んだ男(僕)が現れて、たくさんの民衆(僕)を目の前に大仰な身振り手振りを交えて演説を始める。

 

諸君、一体ここはどこだ?(北国!)

セイ、ワンモア、諸君、一体ここはどこだっ!?(北海道!)

プリーズワンスモア、諸君! 一体ここはどこなんだッ!!?(稚内!!!)

 

民衆(僕)を見事にアジテートすることに成功した僕は、穏やかな表情で僕に話し始める(僕しか出てきませんが最後までお楽しみ下さい)。

 

「オーケーオーケー、じゃあ食べておかなくちゃいけないもの、あるでしょ?」

「でもいいんですかね。あれだけグルメであることを忌み嫌ってた人間が、贅沢しちゃっても」

「二種類の人間がいる。やりたいことをやっちゃう人と、やらない人。あんたはどうする?」

……やっちゃえ。ニッサン!

 

心の中の永吉に見事説得された僕は現代っ子なので、ここでもネットを駆使して昼食の場所にメドをつける。

「うろこ市」という土産物売り場の中にあるうろこ亭。

席に座り、熱いお茶をすすりながら僕は大塚明夫よりも渋い声を作ってオーダーする。

 

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反則でしょ

 

「うろこ市丼」。早い話が海鮮丼だ。

腕相撲をする時、大体手を握るだけで相手の力量が分かるように、この「うろこ市丼」も写真を見ただけでそのポテンシャルが窺い知れるのではないだろうか。

わさびを醤油で溶いて、丼全体にゆっくりと回しがける。

焦らない。待てない男はモテないことを知っているからだ。

レモンをよけて、僕は迷わず〆サバに箸をつける。

迷わない。決められない男はモテないことを知っているからだ。

〆サバを口内に放り込む。

〆られているクセに、まだ生きてるッ!

必要以上に酢を効かせる必要がないのはやはり鮮度がいいからか。エグみの一切ない〆サバ。こんなの初めてだよ!

 

次に僕の箸が標的に選んだのはサーモン。

口内に放り込む。

味覚の激流を、怯むことなく上ってくるその力強さ! 遡行。遡行している。

僕は舌先に野生の螺旋を見出す。

飛沫をあげながら故郷を目指す彼らの眼差しに映っているのは、煌めく生命のDNA!

イカ。

 

とろけちゃう~~~(知能が低下して語彙がなくなりました)。

 

エビ。二匹もいやがるぜえ、コイツは。

頭を取り外すと、中腸線が身全体にとろみがかって零れる。

口内に放り込む。

歯を押し返そうとする弾力を楽しみながら、それでも大人であるがゆえに奪うことへの欲望を知った僕は容赦なくその身を噛み切って咀嚼する。

瞬間。

僕の口内の太平洋プレートに歪みが生じて、味覚の大地震が舌を揺るがし始める。

ああ、そうか。

これは食事ではない。戦争なんだ。

僕は震えながら、いくらととびこをご飯と一緒に、一気に口内に放り込むッ!

 

味覚の、カンブリア爆発やあ。

 

5メートルほど後ろに吹き飛びながら、薄れゆく意識の中、生まれ変わったらうろこ市丼になろう、と僕は思ったのだった(あ、110番するのやめてもらっていいですかね)。

 

 「うろこ市」を出て、セイコーマートでビールとアテを買い、ホテルに帰ってブログをまとめることにする。

明日の早朝にはここを発つ。分かっているが名残惜しい。

僕はどうやら稚内のことを、とても気に入ってしまったようだ。

サッポロビールを飲みながら、北海道名物「焼きそば弁当」を食い、記事を作成していく。

 

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証拠です

 

自分の写真が一枚もないことに気づいたので記念撮影する。一応、本当に稚内にいましたよってことで。笑

 

シャワーで酔いを醒まし、朝六時前にアラームをセットして、布団に潜り込む。

こうして稚内最後の夜は更けていった。

 

……そして、眠りも浅く、あっという間に朝。

アラームと共に目をこすり、起床した僕は知ることになる。

 

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この街の、本当の美しさを。

 

稚内~神戸へ

そうか。と一人でなんだかよく分からない納得をして、僕は頷く。

これが稚内にとってどんな天気なのか分からない、という僕の疑問に、最後の朝になって、この街は答えてくれたワケだ。

凍てつく透明な極北の空、その圧巻のグラデーション!

夕焼けの色が本当の世界の色だとしたら、ではないけれど、水平線に近づくほどその青い皮膚は薄くなり、燃えたぎる生命そのものを表す赤へと色調を変えていく。

 

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駅前。旅に出て分かったことが一つある。

それは、旅に出たからといって、なにか劇的な変化や示唆が訪れるのではない、ということ。

いや、もしもう少し僕が若ければ、もっと景色や風景に無理にでも意味合いを見出して、自己変革へとかこつけていたのかもしれない。

でも、そんなものは、今の僕にとってはハリボテの、偽物の天啓だ。

 

すべてを開く鍵が見つかるそんな日を捜していたけど、なんて単純で馬鹿な俺!

 


小沢健二 - 強い気持ち・強い愛 Official 魔法的字幕

 

結局、どこに行こうが、僕は自分を引きずらなくてはいけないのだ。僕だけは僕からは逃げられないのだ。

僕はそういう風に、「今抱えているいろんなこと」を前向きな気持ちで諦める。

それから僕は改めて確認する。

希望を連れていきたいのなら、絶望も連れていく必要がある、ということを。

 

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さらば稚内。最後の最後に一番美しい姿を見せてくれるとは。

卑怯なヤツだ。忘れないでいてやろうじゃないか。

 

特急サロベツに乗り込んで、旭川で特急ライラックに乗り換え。

睡眠薬には『ノヴム・オルガヌム』。寝つけない夜にハルシオンなんて必要ない。ニーチェ、ウィトゲンシュタイン、小難しい哲学書があれば十分。

 

「しかし単に道を示し通れるようにするのみならず、実際に通ってゆく決心である。それゆえに著作の第三部は宇宙の現象を包括する、すなわわちありとあらゆる種類の経験、および哲学設立のためその基礎になりうるような自然誌をである。というのは、何か卓越した論証法や自然を解明する形式では、なるほど精神を誤謬および逸脱から守り、かつ……」

 

……うむ。なにを書いてあるのか全然分からないので、本当によく眠れる。

 


ノヴム・オルガヌム―新機関 (岩波文庫 青 617-2)

 

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六時間ほどで、札幌着。

雪が降っていて、結構寒い。

飛行機の時間までまだずいぶんあるので、観光することにする。

駅前のコインロッカーに荷物を預けて、いざ手ぶらで札幌観光!

 

まず目指すは北海道大学。駅から歩いて五分くらいかな? わりとすぐに辿り着く。

しかしあまり写真をバシャバシャ撮ってミーハーな観光客だと思われて女子大生たちに「きゃー! 観光客よ!」「大学生じゃないわよあのオッサン!」だの「無職よ!」だの言われるのもシャクなので、ああなにもかもかったりいなあ、とパッと見ではそう見える風なんだけど実際まだ眼の輝きは死んでない、つうかむしろ歳を取るごとその光は増し続けている留年重ねて現在六回生「有松」を装って構内を練り歩く。

 

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学び舎。

かつて寝袋一つで公園を転々としながら学校に通い、学食でみんなが定食を食っている横でだし巻き玉子をアテにポケット瓶のトリス・ウイスキーを飲んでいたホームラン級黒歴史時代が蘇ってくる。

好きな作家? 夢野久作」と真顔で答えていたあの頃の自分が向こうから歩いてきたら、黙って抱きしめてシャワーを浴びさせてたらふく美味いモンを食わせてから死ぬほどドつきまわしたい。

 

 


夢野久作 ドグラ・マグラ 上下巻セット (角川文庫)

 

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新渡戸稲造像。

疲れてきたのだろう、「ニトベイナゾーゾー」という発音の妙に像の前で一人ケタケタ笑い転げていたのだが、よく火縄銃で撃ち殺されなかったと思う。

北海道大学にはヒグマやイノシシが頻繁に出現するので、何人かの腕利きハンターが常駐しているのだ(※嘘です)。

 

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クラーク像。少年よ大志を抱け。

「Boys, be ambitious!」と綴られた銅像に「俺ってまだギリギリBoysっすかね、まだ大志抱いても大丈夫っすかねえ」と涙声で話しかけるが、クラークはなにも答えずニヒルにその口元を釣り上げただけだった(※嘘です)。

 

不審者扱いで通報される前に北海道大学を出て、時計台を目指す。

札幌といえば時計台でしょ!

 

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これが、、、?

 

え? ショボッ。シルバニア・ファミリーの家の方が豪華やんけ!

 

ねえねえ大雪原は!? 誰もいない岬や教会は!? 鈍色の海と舞う鳥たちはッ!?(※めんどくさい女の子ほど好きなタイプです)

 

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怒りのあまり、気づけば蕎麦を食っていた。

よしよし、これでなんとか北国ロマン指数を取り戻した。

 

新千歳空港まで向かい、カフェでブログを書いてからお土産を探していると、あっという間にフライトの時間。

夜の七時。たくさんの思い出をありがとう、北国よ。

 

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飛び立つ飛行場の煌めきと、

 

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辿り着く街のネオンはまるでスター・ライト。

 

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Oh! 愛すべき俺の街、神戸!

道往くすべての人たちが愛しく思えるぜ、と思った矢先向こうからイチャつきまくってるカップルが歩いてきて殺意が湧いたぜ、俺はなにも変わってねえぜ!

 

さて。

向かうはこの旅の始まり。某ライブハウス。

 

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帰ってきました。

 

事務所に上がり、ドアを開けると奥の座席にWさんが座っている。

 

「お~う、お帰りい。どやった?」

 

どこか不敵な笑みを浮かべながら椅子から立ち上がるWさん。

「いや~なんか暑いっすね、神戸の街は。なんでやろなあ。あ、こっちは雪降ってないんすか?」

いつも通り軽薄な調子で、ヘラヘラ笑いで話しかける僕。

「あ、これ。お土産っす」

そう言って、Wさんにビールキャラメルを手渡す。

手に取ってしばし眺めたあと、Wさんは真剣な顔で僕に言った。

 

 

「いらんわ!」

 

 

無職・自称ミュージシャン・稚内一人旅、(完)。

 

 

 

 

 

~~~おまけ~~~

諸経費。

飛行機:神戸―新千歳【往復】 14200円

 

3月1日

電車:大石―神戸三宮 140円

電車:神戸三宮―神戸空港 330円

喫茶店モーニング 490円

快速エアポート:新千歳―札幌 1070円

特急:札幌―稚内【往復】 13580円

「初代」ラーメン 780円

喫茶店コーヒー 302円

ビールとウイスキー 769円

駅弁 1080円

セイコーマート晩飯、酒 1900円くらい

 

3月2日

バス:稚内―宗谷岬【往復】 2500円

「たからや」塩ラーメン 700円

港の湯・タオル付 800円

セイコーマートアテ、酒 615円

「親爺」

タコ頭 500円

中トロ 1100円

カニ味噌豆腐 500円

ブリトロ ?

熱燗4合 ?

白鶴地酒 ?(楽しくてメモ忘れてました)

合計4600円くらい?(一人前用に少し減らして盛りつけているので、刺身を安くしてくれているらしい。確かに安い!)

「広宣」チャーメン、チューハイ 1400円

 

3月3日

「青い鳥」塩野菜ラーメン 800円

北門神社・賽銭 100円

教会・寄付 100円46256

ノシャップ岬 水族館・科学技術館 500円

バス:ノシャップ岬―稚内駅前 220円

「うろこ市」うろこ市丼 1800円

セイコーマート晩飯、酒 955円

 

3月4日

ホテルサハリン 三泊宿泊代 12900円

水、コーヒー 250円くらい

弁当 400円くらい

札幌駅ロッカー代 500円

駅にて蕎麦 360円

快速エアポート:札幌―新千歳 1070円

喫茶店コーヒー 360円?

電車:神戸空港―神戸三宮 330円

電車:神戸三宮―大石 140円

 

お土産代を別にすると、合計約66041円の旅でした。

 

~~~おまけ2~~~

 

 

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マルマン

 

帰宅祝いにWさんが奢ってくれた激ウマ中華の写真を貼りつつ(ビールは当然サッポロ!)、名残惜しいですが、それではみなさまこれで。さよなら、さよなら。