真白きだけの花火よ霞草

三十路で始めるロックンロール。いまだ売れていない天才(自称)バンドマンが語る音楽、文学、哲学、詩、料理、日々、あるいは旅。

稚内一人旅(無職・自称ミュージシャン)~その④~

はじめに

この一連の旅行記は、今からおよそ二年前、Amebaブログに書いていた記事です。

自分の人生において、とても大きな意味を持つことになったあの日本最北端の地・稚内旅行の記録を失うのはあまりにも惜しい。

ということで、こうして始めたばかりのはてなブログに持ってくることにしました。

諸事情により何日か更新できないので、こちらをお楽しみ下さい。

けっこう面白いと思いますよ。あと、もし稚内へ旅行に行く人がいれば役立つかもしれません。

 

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稚内、三日目

まさか最北端の地で泥酔して喉の渇きで目を覚ますとは思わなんだ。

「ふえぇ……」といくぶん幼児退行しながらペットボトルの水をひたすら飲み倒しては横になり、やがて迎えた三日目の朝。

 

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いい天気

 朝は吹雪だったが、日が昇るにつれて天候は落ち着いてきた。

それでも窓を叩く風の強さから、街は昨日よりも厳しい寒さを増していることが分かった。

顔を洗い、シャワーを浴びて状態を整える。

二日酔いの胃袋は、なにか優しいものを欲しているようだ。

これが他人の身体なら黙ってバファリンの半分を無理やり渡すだけなのだが、僕はとっても自分に甘い男なので今日も甘やかしてやることにする。

よしよし。自分しか自分の面倒を見てくれないもんね~(黙れ)。

 

万全の防寒対策を整えて、稚内散策へ。

 

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日産ブルーバード

 

ホテルから徒歩五分くらい。稚内でラーメンといえばこの「青い鳥」らしい。

塩野菜ラーメンを注文。

このラーメンを限りなく透明に近いブルーと名づけることにしよう(言いたいだけ)。

うむ。美味しいんだけど、二日連続塩ラーメンってちょっと飽きる。

おまけに昨日の泥酔祭りが効いているようで、食欲とは別に内臓がついていかない。

それでも完食して、店を出る。

よし、身体は暖まった。今日の最終目的地は「ノシャップ岬」だ。

どうやら徒歩で十五分くらいの距離らしい。ちゃっと歩きますか、ちゃっと。

 

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雰囲気あります

 と。その前に、近くにある「北門神社」に立ち寄る。

宮司さんがいるので、実質日本最北端の神社はここらしい。

雪に覆われた神社って……なんかええやん?(島田紳助の口調で)

 

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天界への道

 

おおすげえ。この階段上ったら美少女の巫女さんがいて俺のこと待ってたりせえへんかな、と29歳にもなってアホみたいなことを考えながら階段を上る。

しかしさ。

 

舞い散る粉雪の中、階段を下りてくるのは、かつての恋人……!? まさかこんな最果ての街で二人が再開するとは。

宗谷に流れ着く流氷をも溶かす、愛の炎のラブ・ストーリー。

 

みたいなこと言うとさ、きっと誰もが「小説じゃあるまいし」って言うけどさ、このパターンはもう今日では小説にはなりえないワケですよ。

「物語はいつも予期し得ないところから放たれる矢である」とは今僕が適当に考えた言葉なんだけど(おいおい)、誰もが「小説じゃあるまいし」って言うってことはですね、

 

舞い散る粉雪の中、階段を下りてくるのは、かつての恋人……!? まさかこんな最果ての街で二人が再開するとは。

宗谷に流れ着く流氷をも溶かす、愛の炎のラブ・ストーリー!

 

っていうベタベタなストーリーが、かつては「予期し得ないところから放たれる矢=物語」として成立していた時代があるってワケだ。

ということは、物語を作るっていうのは、現実からどんどん可能性を奪っていくということに他ならないんじゃないか?

……いや、物語に奪われた分だけ現実もまた拡張しているのか。

コンビニ、スマホ、ネット、ツイッター、フェイスブック、新しいもの、新しい出来事。

「絶対に現代的であれ」とランボーは言ったが(この詩は『不滅』でも引用されていた)、その拡張された現実を相対化させることこそが物語の役目なんじゃないのか?

挑んでみるか。言葉の魔術師と呼ばれたこの僕が、ベタなストーリーにメスを入れて、新しい神話を創造してみせるっ!

 

舞い散る粉雪の中、恋人を下りてくるのは、かつての階段……!? まさかこんな再開の街で二人が最果てするとは。

流氷に流れ着く宗谷をも溶かす、愛の炎のラブ・ストーリー!

 

……ね?(調子乗りましたごめんなさい

 

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厳かな気分に

 

美少女の代わりに向こうからオバチャンが歩いてくる。

よし。この際だ、オバチャンでもいいか(やめとけ)。

 

中には何人か人がいて、おそらくロシア人もいた。

とりあえず賽銭を放り込んでみる。手を合わせる。

無事に帰れますように。ヒグマに遭遇しませんように。万一出会ったら勝てますように。

 

神社を出て、再び歩き出す。

と、教会を発見。

日本最果ての教会。なんて敬虔な響きなんだろう。

入り口の前まで行って、ドアに手をかけると……開いた。

「司祭室」には「不在」という札がかけられている。

え? これ入っていいの? ええやんな? 天の国は全ての人に開かれてるよな?

 

とりあえず室内に入ってみる。ここでむちゃくちゃトイレに行きたくなり、トイレのドアを開ける。

が、暗い。神聖な場所のはずなのに怖い。

……ひとまず尿意は置いといて、二階の「聖堂」へと足を向ける。

階段の途中には、色褪せた宗教画がいくつもかけられている。怖い。

 

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神聖、、、でもけっこう怖い

 

誰もいない教会でイエス・キリストの像と対峙する。

グルメは書かないと言っておきながら、結局いろいろ飯屋のこと書いてごめんなさい、と懺悔する。、、、メシアに。ぷぷっ(ダジャレ(罰当たるぞ))。

 

ステンドグラスから射し込む光が美しい。

僕は気づく。自分の心にやましいところがあるから、恐怖を感じ、悪魔に取りつかれるのだ。

全てを神に委ねよ。

心を無にしてトイレに入ろうとする。

 

でも中にぜんぜん知らんオッサンとかおってオッサンも俺もめっちゃ目見開いて「わあああああ!!!」みたいな感じで鉢合わせたらどうしようとか考えてその想像でちびりそうになった僕は「寄付箱」に100円放り込むとダッシュで逃げ出してセイコーマートを探すことにした。助けてセイコーマート! あのオレンジ色で僕を安心させて!

 

このままじゃ、漏る。

 

ノシャップ岬へ

ふい~(ジャー、ゴポゴポゴポ)。

無事にセイコーマートを見つけて目的を成し遂げたあと、再びノシャップ岬目指してひたすら北上していく。

北上していく……のだが、ちょっと待ってくれ。明らかに十五分以上は、それどころか三十分以上は歩いているのに辿り着く気配がない。おっかしいな、と思いつつネットで調べなおす。

 

うん、「車」で十五分ね。

 

ここまで来たら意地でも歩いてやる、と通り過ぎるバスに恨めしい目を向けて前進を続けていたのだが、次第に雪が強さを増してくる。

吹雪、といえば大げさだが、あまり目を開けていられないくらいの雪だ。

ああやってもた、ああやってもた、と歩くリズムに合わせて思いながら、それでも歩き続けること三十分くらいだろうか。

 

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もう一つの最果て岬

 

なんもない。

ばり寒い。

でもイルカの時計、かわいい。

ノシャップ岬に到着する。

土産物屋はほとんど閉まっているが、お目当ての「ノシャップ寒流水族館」は開いている。

併設されている科学館にも入れるみたいだ。入場料500円を払い、中へ。

さあ、日本最北端の水族館。楽しませてもらおうか。

 

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マジで?

 

ちっちゃ!!!

基地やん! 秘密基地やんけ! 入り口と出口一枚の写真に収まってもうてるやんけ!

……まあ、中はむちゃくちゃ広いんかもしらん。どれどれ。

 

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いや怖いって!

 

暗ッ!!!

基地やん! 秘密基地やんけ! 教会といい勝負で怖いやんけ!

 

最初に展示されているのはクリオネの水槽。

まともに見るのは初めて。へえ、きれいやん。

パネルの説明を見てみる。

 

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よく見ると全然天使ではなく悪魔

 

可愛いクリオネ→幼生→変態後のクリオネ、という並びに爆笑する。

こらえきれへんかったんやろうなあ、性欲とか(違う)。

 

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ボード

 8.5cm!? そんなデカいヤツまで変態!?(しつこい)

っていうか、あれ、羽ばたいてるんや!?

ほんで最後のん、海流にのってるだけで泳いでるんちゃうやろ!!!

 

誰もいない暗い水族館を、一人ゲラゲラ笑いながらオッサンは突き進んでいく。

もしかして一番怖いヤツは僕なんじゃないだろうか、という疑問は水族館の闇に葬って。

 

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これが、、、あの

 

 イトウ。釣り人の間では伝説の魚。2m近くになるヤツもいるとか。

 

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お前の仲間は俺が喰ってやったぜ

 

おお! ホンマにデカいです大将! これがあのタコ頭なんですね。

にしても、この水族館にいる生物はどれも妙にデカくて不気味だ。

 

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ぢょっどぉぉ!? ごれ、半額なってへんねんけどおお

 

ああ、おるおるこんなオバハン。水族館来んでも関西スーパーで見れるわ。

 

他にも一応かわいい魚やらいるんだけど、そんなものを一生懸命撮ってる自分を想像するだけで「いーっ!」ってなるのでやめておいた。

 

外に出ると、バシャバシャと水音が聞こえる。

小さなプールのようなものがあるので覗いてみる。

 

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足元見てきます

 

大量のアザラシ。エサがもらえると思って一斉に近づいてくるが、こちらが無職だと分かるとあっさり泳ぎ去ってしまう。

 

水族館を満喫した僕は、科学技術館に足を運ぶ。

もちろん人は一人もいない。

昔懐かしの「イライラ棒」があって一人で遊ぶ。

 

「ぎゃー」

 

虚しいのですぐにやめる。

さあ、そろそろ出ようかと思っていると、館内放送が流れる。

なんとこの科学技術館にはプラネタリウムがあって、今からプログラム「南極の夜空」を上映するというではないか。

科学技術館には僕一人。

ということは? (ということは?)

プラネタリウム、貸し切り!?

おお、偉大なる我が魔導の先達、稲垣足穂よ。天体を愛するものにとってこれほど嬉しいことがあるでしょうか?

入り口まで行くと、係員の女性が愛想よく迎えてくれる。

 

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最高

 

客が自分しかいないプラネタリウム、って、最高の贅沢やと思いません?

 

しばらくすると、室内の照明がうっすら落ちて、さっきの係員が話し始める。

どうやら南極観測隊の話と、生き延びた樺太犬の「タロとジロ」になぞらえたプログラムらしい。

僕は小さな拍手を送る。

 

照明が全て落ちると、ドームの中は深い闇に覆われる。その暗闇に、偽物の、しかし爆発的な光芒を放ちながら無数の星々が浮き上がる。

いや、空間に穿たれた別次元への入り口。本物の天空への。

全星座のうちで最も小さい南十字。隣にあるケンタウルス。遠く離れた大マゼラン雲と小マゼラン雲。

そして。

 

「また、南極ではオーロラが観測されることも有名です。タロとジロは、どんな気持ちでこの空を見上げて、主人を待っていたのでしょうか」

 

言葉と共にオーロラが投影される。

作り物のチープなオーロラ。しかし色彩織りなす神のカーテンの前に、僕の心は打ち震える。

 

……やがて、ゆっくりと南極の空は明けていく。

 

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memo

 

プラネタリウムを出た僕は、引っかかっていた「なにか」に気づくと、急いでアイフォンを取り出す。

旅の初日、3月1日にとっていたメモ。おそらく飛行機に乗っている時だろう。

この旅に出て一番最初に打ち込まれた文字。

 

極光(オーロラ)。

 

僕は、どうやらこの行程が必然であることを知る。