真白きだけの花火よ霞草

三十路で始めるロックンロール。いまだ売れていない天才(自称)バンドマンが語る音楽、文学、哲学、詩、料理、日々、あるいは旅。

稚内一人旅(無職・自称ミュージシャン)~その②~

はじめに

この一連の旅行記は、今からおよそ二年前、Amebaブログに書いていた記事です。

自分の人生において、とても大きな意味を持つことになったあの日本最北端の地・稚内旅行の記録を失うのはあまりにも惜しい。

ということで、こうして始めたばかりのはてなブログに持ってくることにしました。

諸事情により何日か更新できないので、こちらをお楽しみ下さい。

けっこう面白いと思いますよ。あと、もし稚内へ旅行に行く人がいれば役立つかもしれません。

 

前回の記事はこちら↓

www.haruichisemon.com

 

愛と幻想のラーメン共和国

JR札幌駅直結、エスタ十階にある「札幌 ら~めん共和国」。

現在時刻は十時五十分過ぎ。

その東部に位置する店舗「初代」の入り口の前で、国木田ミカは、大きく伸びをしながら二時間後には満席になっているであろう店内を想像した。

「う~~~、頑張ろっと」

胸の前で小さく両手を握りしめながら呟くと、誰かがミカの肩に突然手を置いた。

誰か、じゃない。分かっている。バイトリーダーの有松だ。

「麺処 白樺山荘」の味噌ラーメンよりも濃厚な顔、フレームの歪んだ眼鏡、まだ開店すらしていないのに置かれた手からはすでに湿気と熱量が感じられる。三月だというのに有松の身体はどうやらスチームサウナと化しているようだ。

ミカは毎度のことながらおぞましさを感じて、有松に分からないようにため息をついた。

「頑張ろうねえ、ミカちゃん」

仕方なしに振り向いた瞬間、ミカは有松の生臭い吐息と、予想通り、いや、それをはるかに上回る豚骨ラーメン笑顔マシマシに面食らった(ラーメン屋だけに)。

(ぐ、気持ち悪い、セクハラで訴えて国外追放したろかコイツ)

ミカがさっきとは違う意味で握り拳を固めていると、厨房から有松を呼ぶ声が聞こえた。

「こぷ。ちょっと行ってくるねえ」

ぎこちない作り笑いで有松を見送って一息つくと、向かいにある「函館麺厨房 あじさい」から男女の哄笑が聞こえてきた。

 

(殿田君!)(まさに「函館麺厨房 あじさい」の塩ラーメンのようにシンプルで力強い声!)(一緒に笑ってるのは横川ね)(あんなブスと仲良くしないで殿田君)(あ~あ、なんで私には有松なんだろ)

 

筒井康隆の七瀬シリーズのようにミカが多重に思考していると、「函館麺厨房 あじさい」の入り口へ殿田と横川が仲睦まじそうに出てきた。ミカはその様子を見て、今すぐ厨房に入っていって麺を有松に打ちつけたいと思った。

殿田と横川がミカに気づく。

「あ、おはよ国木田。どうしたの? なんだか元気ないね」

「国木田さん、おはようございますわ」

「そんなことないよ! おはよ、殿田君。横川さん」

 

(きゃー今日もかっこいい殿田君!)(「らーめん共和国」のプレジデントよ貴方は!)(横川近づきすぎなんだよてめえは、メンマみたいな身体しやがって)(ら~麺神「ら・ぶ~」よ、我が恋愛を成就させたまえ!)

 

http://www.sapporo-esta.jp/page/ramen/images/map_btn_04.jpg

 

筒井康隆の七瀬シリーズのようにミカが多重に思考しながら笑顔を浮かべていると、

「そろそろ開店するよお。あ、殿田君。横川ちゃん。おはよおお」

いつの間にか有松が隣に並んできていた。

「あ、有松さん。はざーっす」

「あ、お、お、おはようござます」

 

(ああ、今日も「麺処 白樺山荘」の味噌ラーメンのように味わい深いお顔!)(さながら一頭の雄々しい道産豚のようですこと!)(あの隣に並んでいる焼き海苔みたいに貧相な身体の国木田にはもったいないわ)(殿田と変えてくれないかしら。貴方にはトッピングが足りないのよ、トッピングが!)(ら~麺神「ら・ぶ~」よ、我が恋愛を成就させたまえ!)

 

筒井(省略)のように横川が多重に思考していると、時計が十一時を指した。

「札幌 ら~めん共和国」、オープンだ。

「ふう。……ま、とりあえず、今日も頑張ろっと! いらっさー!」

ミカの元気な声が、共和国中に響き渡る。

「「「いらっさー!」」」

その声を合図に、殿田も、横川も、有松も、みんなが一斉に呼び込みを始める。

こうして今日も「札幌 ら~めん共和国」は廻っていく。

ナルトのように渦巻くいくつもの恋愛模様を、秘伝のスープさながらに混ぜ合わせて。

(完)

 

 、、、というイカれた妄想を繰り広げながら「札幌 ら~めん共和国」に入国入国ぅ!(撃ち殺されてもおかしくない)。

櫛比するラーメン屋。はてさて、一体どこに入ろうかと思案した結果、オーソドックスな醤油ラーメンに惹かれて「初代」というラーメン屋に入店。

それにしても、十一時をほんの少し過ぎただけだっていうのにどの店舗も賑わっている。今の時期でこの様子だと、観光シーズン真っ盛りの頃にはとんでもなく忙しいに違いない。

おお労働とは怖いものよの、俺には関係ないわい、とひとりごちながら「醤油ラーメン」をオーダーする。

 

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はわわ、、、ダメだよお犯罪だよお

 今この写真を見ただけでもう腹減ってきた。美味い。とにかく普通に美味い。

味の立ち上がりはオーソドックスな醤油・鶏ガラ、しかしそのうちにゆっくりとスープの中に封じ込められている煮干しや昆布のエキスが口内で開いてくる。

例えるなら、千年蓮。

忘れ去られてしまった悠久の年月も、いつしか花開くことがある。

想いは空間を超えるが、果たして時間は超えしや?

過去は変えられない、と人は言うが、強く願うことが、祈りを捧げることが、もしかして過去に干渉することだってあるかもしれない。

いや、実際にそうじゃないか? 過去に起こった出来事は、そこにプラスの意味づけをするか、マイナスの意味づけをするかによって、まったく変わってくる。

あの時ああしていれば……、しかしそうしていれば現在の自分はいないのだ。

そうか。過去を愛するのならば現在の自分を肯定する必要があるんだ。

「見聞触知、これすなわち仏の道なり」と般若心経に書いてあるように、あらゆる全てに対して開かれること。悟りから離れて、世界を全力で知ること、喜びも苦しみもひっくるめて抱きしめること。これこそが悟りではないのか?

過去の意味を知るためには現在を肯定できなくてはいけない、現在を肯定するためには未来に飛び込まなくてはいけない!

 

あれ。しまった。収拾がつかなくなってしまった。

……(完)!

 

※続きます

 


家族八景 (新潮文庫)

 

 

第四阿房列車

「札幌 ら~めん共和国」をあとにして、電車の時間まで駅の中にある喫茶店でコーヒーを飲むことにする。店内のBGMはなぜかニール・ヤング。僕が読んでいる本はミラン・クンデラ『不滅』。

良い、良いよ。なんだか文学青年の一人旅感が出てるんじゃないの? このBGMがニール・ヤングだって知ってるヤツがこの中に何人いる? ミラン・クンデラを読んだことのあるヤツが何人いるっ!?

とスノッブでペダンチックな快感に身もだえしているうちに、ふと電車の時間を間違えていたらどうしよう、と唐突に思い財布の中にある切符をチェックする。

 

うん、見事に間違えていた。

 

二十分ほど早くなった出発時間(早くなったワケではないが)に焦った僕は急いで喫茶店を出て、コンビニでビールとウイスキーを買う。

 

旅の醍醐味、それはやはり酒を飲みながら駅弁をつつくことではないだろうか?

 

、、、違うっ、これはグルメではない!

 

あなたは内田百閒をご存じだろうか? 夏目漱石門下で、あの芥川龍之介をして「弟子では、君と僕だけだ」と言わしめた名随筆家なのだが、彼の代表作に『阿房列車』という作品がある。

この本は頑固で偏屈なオッサンが無口な友人と電車に乗りながらブチブチしょうもないことを言うだけなのに、それが凄まじく面白いというとんでもない本なのである。

かなり昔に読んだので細かいところはほとんど覚えていないが、確か百閒も酒を飲んだり駅弁を食ったりしていたはずだ。

分かりますか? これはグルメではなく文学なのですよ。

と心の中で呟きながら駅弁を買い、ホームに向かう。

 

 


第一阿房列車 (新潮文庫)

 

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北国の使者

 特急サロベツ。何人かの鉄道マニアが写真を撮っている。

六日以内に札幌と稚内を往復する場合のみ買える「Rきっぷ」という割安切符で乗り込む。

車内の温度はかなり暑い。ダウンもセーターも脱ぎ捨てる。

コンセントが壁面にあるので、携帯の充電をしながら買ってきた弁当を開く。

 

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孤独のグルメ

 「北海道旅弁当」。きっちりお品書きまでついている。

ラーメンを食ったばかりなので、それほど腹は減っていないが、ビールを飲みながらちびちび弁当を食うのが楽しい。

ご飯はあとやな、とか、先に炊き合わせ食うたろ、とかホタテ一気にかじりすぎたな、とか考えながら、本を読みつつかまぼこ一つに二十分くらいかけるペースで食していく。

途中、ビールが尽きたので、ウイスキーに切り替える。

 

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すげえ!

 流れる窓の外を見れば、どこまでも広がる雪景色。手元のクンデラを読めば

 

「ある花が他の日ではなく、ある日に開花することをどうやって説明するのかね? その花の時が来たのさ」

 

という詩的な文章が光り輝く。テーブルの上にはまだ半分ほど残っている駅弁と琥珀色のウイスキー。時折ウトウトして、短く浅い眠りに落ちる。

 

途中、写真に収めることができなかったが、伝説の秘境駅「糠南」を目撃することができた。感動だ。駅が「ヨド物置」で出来ているなんてっ!

 

そして、特急サロベツに揺られることおよそ六時間。

 

 


不滅 (集英社文庫)

 

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あそこに光るのは、もしや、、、!

 ついに僕は、日本最果ての駅に降り立った。

 

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ここが稚内か

 札幌でも思ったが、意外と寒くない。どうやら道内はすっかり春のようだ。

初めての暗い街を、アイフォンのマップを頼りに宿まで進んでいく。

 

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すげえ名前デス

 そして、駅から徒歩十分ほど。無事、「ホテルサハリン」に到着。

「いるかホテル」でもないし素晴らしい耳を持つガール・フレンドも僕にはいないけれど、ここが稚内探訪における僕の拠点だ。

こんばんはサハリン。ドーブルィ・ヴィーチル。話せもしないロシア語で挨拶をしつつ、僕はホテルのドアを開けた。

 


羊をめぐる冒険